朝。カーテンの隙間から指す光に眼がかすむ。

「っ……ん……、またあの日か……」

何度見たかも分からないような、繰り返される『8月28日』にうんざりする。忘れたいとは言わないけれど、もう少しだけ思い出させないようにしてほしい。
そして、着ていたパジャマを脱ぎ、適当にたたんでから制服を着る。この地域のなかではいいデザインのほうだし、そこそこ可愛い制服は私のお気に入りだったりする。
ぼさぼさの髪をなんとなくとかして、またなんとなく縛れば朝の準備は終わり。

「……いってきます」

誰もいない家にそうつぶやいてから、鍵を閉めた。



私、佐渡藍音は学校一地味な女だと思う。ってか実際そうだと思うけど。だって女子の高校二年生なんて青春真っ盛りじゃん。みんなオシャレしてみたりとか、……恋とか、彼氏を作ってみたりとか、いろいろなことが出来るとき。あいにくだけど、私はまったくと言っていいほど興味がない。だってどうでもいいし。
どうでもいいことに頑張れるほど、器用じゃないもん。
とりあえず周りのみんなについていけるぐらいの知識があればいい。あとは、ゆっくりできる家とか、時間とか。それから……、『君』との思い出があれば大丈夫。



「あっおはよー藍音!」
「おはよう、桜空」

学校に着いて、自分の教室へ行く途中に桜空に会った。
────春日井桜空。私の、ゆういつの親友。
一緒に居て楽しいと思えるのはやっぱり桜空だし、だから私は桜空が好き。友達的な意味で。

「ねぇねぇ見たー?昨日話したやつ!」
「え?あー……あれか。見た見た」
「でっ!どうだった?よかった?」
「うーん、むしろ私はその隣のヤツの方が……」
「えーっ!!なんで!?」

そんな、何気ない話。
その平凡で、代わり映えのない日々を私は九年間過ごしてきた。別に後悔なんてしてないし、よかったと思える。だからこれからもこんな毎日を過ごしていく。と思っていたのに。

突然に、向日葵はざわつき始める。