塾を出ると、辺りはもう暗かった。
「桜井さん、何がいい?」
「へ?」
「ジュース。あ、自販機でいい?」
自動販売機の前で立ち止まって、私の方に振り向いて言った。
「あ、はいっ」
駆け足で先生の隣に向かった。
先生と肩を並べて、自販機を見つめる。
「じゃあ、これがいいです」
「りょーかい」
ズボンのポケットから黒いお財布を取り出して、120円を自販機に入れた。
私の変わりに、私が指をさしたオレンジジュースのボタンを押してくれる。
私の変わりに、音を立てて落ちてきたジュースの缶を取り出してくれる。
優しい先生。
「はい。ごめんね、こんなので(^_^;)」
苦笑いをしながら缶を差し出す。
"こんなの"なんて言わないで。
とっても嬉しいから。
涙が出そうなくらい嬉しいから。
「ありがとうございます…」
差し出された缶を両手で受け取り、握りしめた。
