19歳のミキがベッドの中で目を覚ます…―なんだか深い夢を見ていたような

ハウスメイドが自分の身の回りの世話をしてくれていた…―彼女はミキが目覚めたことに気付いていないらしい
「…」
黙々と仕事を続けるハウスメイドを、ミキはしばらく見詰めていた…―とくに何をした訳でもないのに、昔の嫌な夢を見ていたミキは働く彼女の姿を見て少しだけ心が落ち着いた気がした

ほんの少し長く息を吐く
そんな些細な息遣いの違いに、ハウスメイドは気付いたのか、ミキが目覚めていたことにやっと気付いてくれた

「お嬢様、お目覚めですか」
「えぇ、すこし前から」
「え?」
「遠野さんの観察をしていたの」
ほんの少しふざけた口調で言うと、遠野と呼ばれたそのハウスメイドは、優しく微笑んだ

そして、別に一人で起き上がれるというのに、ミキの身体を起こしてくれる…―その最中、遠野は含み笑いをしながら「私などの観察をしても楽しい事などありません」と言ったので、ミキは「そう?」と同じように含み笑いで返した

テーブルの上に手早く朝食が用意されるが、正直起きたばかりでお腹はあまり空いていない
「外に出て散歩したいわ」
ダメもとで遠野に告げる…―そんなミキの言葉に、遠野は悲しげに笑った

「旦那様に叱られます」
「どうして?」
「お嬢様の病は、外気になるべく触れないほうが良いそうなのですよ」
遠野は、宥めるようにミキに言った

19年間はミキにとって長すぎた

ベッドの上の病に犯された姫君は、遠野の言葉に肯定の意も否定の意も見せず、仕方なく朝食をとりはじめたのだ