――――どうして…
「ぁ、あの…」
どうして今、あたしの名前を…?
じっと彼の顔を見つめて答えを探すけれど、決して彼は教えてはくれなくて。
それどころか、先に視線を逸らし、あたしの横を通り過ぎていった。
……ふわりとあの香りを残して。
「あぁ〜…行っちゃった…」
「やっぱりカッコイイ〜!」
周りにいた女の子たちは、心底残念そうに立ち去っていく。
大きな輪が解け、真ん中にいたあたしだけがぽつんと廊下に立っていた。
「―――琴音?」
ふと後ろから名前を呼ばれ、振り向いた先には心配そうに眉を垂らした美波がいた。
「大丈夫?」
大丈夫…じゃないのかも。
曖昧に笑うと、美波は小さなため息をもらした。

