そして彼がするりとあたしの顎から手を離した。


今だにぼーっとしているあたしに彼は小さく笑い、綺麗な顔を近づけた。




――――ちゅ…




小さなリップ音がした。



そしてまぶたに残る甘い温もり。




「…治療だ」




そう言い残すと彼はあたしから離れ、静かに暗闇に溶けていった。




つい―…と頬を撫でる風の方へ顔を向けると、すっかり沈んでしまった太陽の代わりに、暗闇が辺りに蔓延っていた。



体が熱い。



頭も何だか朦朧としていて、何だか冴えない。



ただ、さっきの彼の言葉だけが、ぐるぐると回っていた。





―――明日、今日と同じ時間にここに来い。




「……何、それ」




徐々に近づいてくる足音。


それを聞くと、ゆっくりとまぶたを閉じた。




今日は…何だか疲れちゃった…




「―――眠たいよ、颯ちゃん…」




がらりとドアが開き、琴音!と焦ったような声が聞こえて、あたしは意識を手放した。




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