「悪いな、起こさないようにしようと思ったんだけど」

功は、苦笑いしながら両手をあわせる。


佐柚は
ううん、と小さく言って微笑んだ。



功の目に、
佐柚の背後のぐちゃぐちゃの黒板がとまった。


「有末、大丈夫か?」

功は子犬の笑顔を消して、
静かに言った。


その一言に、佐柚は視線を功からそらした。

キレた大きな猫目が、
真っ暗な窓の外を見つめる。



「大地も心配してたし、朝、紗和ちゃんだって心配してたぞ」


佐柚は何も答えない。


その間に功は
自分の机からプリントをとりだす。


「おっ、これこれ」


ふた月分の練習予定表だ。



「功さんは…」


佐柚が小さく口を開いた。


「功さんは、怒ってないの?」


佐柚の両目が窓の外から功に移る。


すぐにその瞳に涙がにじんだ。