「由梨子が」

ぼそっと栞が言った。

「大地さんを映画に誘った、って喜んでました」

佐柚は、
栞を睨んでいた視線をはずし、天を仰ぐ。

そして

「そ」

と言いながら栞に背を向け、歩き始めた。


大地のこと、功のことは
もう佐柚には関係のないこと。

佐柚は自分に言い聞かせた。

そして代わりに、
店に来る男たちや大木、蓮の顔を思い浮かべる。

どれも吐き気のする嫌な男。


佐柚は心を鉄にして、
ただ歩いた。


栞は佐柚の背中を無表情で見つめ、
充分に距離が開いてから、そのあとを追った。