「いらっしゃいませ」
入るとすぐに、スーツ姿のロン毛の男が出迎えた。
男は入ってきた美しい女に驚いた。
「今日は、どなたをご指名で?」
色っぽい声で誘ってくるその男を無視して、押しのけるようにして佐柚は中へ進んだ。
「お客様、困ります!」
佐柚はうしろから追いかけてくる声を無視した。
お水のグラスを運ぶ男とすれ違いざまに、両手に乗せられたお盆から2杯分グラスを取った。
「お客様…」
と、その男も焦っていた。
佐柚は両手に水の入ったグラスを持ち、ズカズカと進む。
5,6人の女達が、2人のホストを囲んで座る、大きめのテーブルを見つけた。
立ち止まる。
ホストは佐柚に背を向けて座っており、
反対側のソファに座る女が先に佐柚に気がついた。
ホストが女の視線に気がついて振り向く前に、
そして女が声を上げるよりも前に、
佐柚は、
両手に持っていたグラスを
2人の頭上でひっくり返した。
