功の家は、駅からそう遠くはなく、自転車で15分くらいでついた。
ただ、大地の家の方向とは正反対で坂が多く、走りにくい道だった。
豪勢な一軒家のインターホンを押す。
《はい》
女の人の声だ。
この声の主を大地は知っている。
「杉原です、こんちは。功、ちょっといいすか」
《あら大地くん!ちょっと待っててね今出すわ》
聖母マリア様のような、功の母親だった。
功の母親は本当にいつもニコニコしていて、ありえないくらいに優しい。
怒ると鬼だ、といつも功は苦笑いするが、大地はその鬼の面を知らないので、やはりマリア様に見えた。
しかも、事実名前は“まりや”だった。
そう時間はたたずに、玄関があいた。
ジャージ姿で現れた功がよっ、と手をあげる。
「元気か」
「別に体調崩してたわけじゃないからね」
功がフェンスを開け、外に出てくる。
「母さんは、大地くん中に入れなさいって言ったけど、どうせ中じゃできない話だろ?」
「まぁビンゴ」
功はくしゃっと笑った。
「有末に会ったの?」
