佐柚は、今日も仕事だからと言ったので、津川駅で2人は別れた。
佐柚があの路地に見えなくなるまでその背中を見送って、大地は自転車置き場へ向かった。
自転車を出して、跨る。
漕ぎ出そうとして、止まった。
大地はポケットから携帯を取り出した。
そして打ち慣れた番号を押していく。
呼び出し音。
プルルルル_
プルルルル_
《もっしー?》
功だ。
「功、今家にいるか?」
大地は、エナメルを肩から下ろして前のかごに無理矢理つめる。
電話の向こうは静かな場所のようだった。
雑音が少ない。
《いるよ。兄貴達も今日はみんないる》
「今からお前んち行っていい?ちょっと、家の前まで出てきてくんねぇか」
功の嬉しそうな返事が聞こえた。
佐柚は、功さんにはちゃんと伝えて、と言った。
黙っていてほしいと言われても、大地はそうできたかはわからない。
佐柚の力になりたくて、きっとすぐに功に相談してしまっただろう。
他の人には言わないでほしい、とも言った。
いつも一緒にいる宮下という子と、1年の真田という男子しか知らないらしい。
これは、守れる自信があった。
電話を切り、大地は自転車をこきだす。
日が少し傾き始めた夕方の空は、
街全体にのしかかるように、
燃えていた。
