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津川駅までの電車の中で、大地は佐柚を覆うようにして立っていた。
はたから見たら、まるで本物の恋人同士に見えるだろう。
佐柚は何も言わない。
大地は、少し迷ってから切り出した。
「…昨日」
佐柚が顔をあげた。
「ごめん。功と…」
佐柚は首を傾げる。
「…店に行った」
「え…」
佐柚の顔に不安の表情があらわれた。
それをしっかり見て、大地は焦った。
「ごめん!」
声を張り上げた。
乗客達が2人に注目する。
大地は気にしなかったが、佐柚は顔を赤らめた。
「おっきいよ!」
しーっ、と小さな声で佐柚が言った。
佐柚は笑った。
その笑顔を見て、大地は泣きそうになった。
この華奢な体で、佐柚は一体なにを抱えているのだろう。
昨日ビルにいた男。
瀬川蓮と名乗る男。
さくら、という姉。
1人で、大丈夫なのだろうか。
目の前にいる佐柚が、消えてなくなってしまいそうで、
大地はこわくなった。
そんな大地に気がついて、佐柚はまた小さな声で言った。
「ちゃんと話すよ」
ガタンゴトン
と電車が揺れる音で、佐柚の小さな声を聞き取るのは、少し困難だった。
