確かにそうかもしれない。


“歩”だったら、1文字でも“あゆみ”と読むことはできる。


それに、付け足すにしても“実”とか“美”とか……



“巳”じゃなくて、もう少し可愛らしい字にしてくれれば良かったのに
なんて何回も思ったことがある。



「でも、その字じゃないと駄目だったんだよ。歩巳の場合」


「どういう意味?」


「ほら、漢字っていろんな読み方があるだろ?で、“フジ”をかんじに直して、女の子っぽい名前を考えたら、“歩巳”出てきたんだって。
藤の下で出会って、藤の下で恋に落ちた2人の子どもには、ぴったりの名前だろ?」


「そうなんだ……。もしかして、フジがわたしのことを“歩巳”って呼び続けるのも、自分を“フジ”って名乗ってるのも、その影響?」



少し久しぶりに、フジの顔を覗き込んだ。


さっきの至近距離以来だから、どきどきするのは仕方がない、ってことにする。



「その通り!何か、この名前使ってれば俺にも良い出会いがありそうだったし」


「良い出会いって……」


「実際に出会えたしな、歩巳に。びっくりしたよ。確かに前はあの2人が子どもを連れて遊びに来てたけど、最近はそれもなくなったしさ。
正直、歩巳が1人でここへ来た時、しかも、俺と話す条件を満たしてくれた時は嬉しかったよ」



吸い込まれるみたいに、フジの目を見詰めた。



シルバーの髪は、暗い中でもキラキラしてて……


真っ暗闇で迷ってたわたしを、正しい方向に導いてくれるみたいだった。



「そうなんだ。何か、運命みたいかも」


「そりゃもう、運命なんじゃね?」