「フジ!ちょっと……服!せっかくあげたのに、裸で抱きつかないでよ!」


「いや、下履いてるから裸ではないけど」


「上も着なさいっ!」



そう言って何もまとってない腕をぱしっと叩くと、フジは笑いながら腕を解いた。


背中に流れ込むひんやりとした空気が、少し寂しい。



そう思ったら、ついさっきまでの行為の恥ずかしさに気付いて、思わず両手で頬を覆った。



「あ……えと、前さ、不思議な夢見たことがあるんだけど……」



何とか話をそらしたくて

何とかわたしのこんな行動に気付かせないようにしたくて


わたしは、今思い出した、あの夢の話をした。



「あー……。それ、歩巳だからかも」


「え?あっ、そう言えば、何でフジはわたしのこと“歩巳”って呼ぶの?友達はみんな“あゆ”って呼ぶのに。前にその話、したよね?」



夢の話には疑問もあったけど、そのことの方が引っかかって切り出した。


麻奈みたいに仲の良い子から呼ばれる愛称を、フジにも使ってほしい気がする。



「だって、“歩巳”って大事な名前だろ?……できたっ」



いつもよりも少し明るく跳ねたフジの声に、思わず振り返る。


そこには、ベンチに片膝を乗せて頭をかくフジの姿があった。



沈みかける太陽の赤に、シルバーの髪がきらきらして見える。



悔しいけど、やっぱり格好良い……――――



麻奈を付き合わせて悩んで選んだ服もだけど、何よりも、悔しいくらいに藤色が似合う。



「こんな服着たことないから恥ずかしいけどさ。感想ないわけ?」



フジは本当に恥ずかしそうだった。

まっすぐわたしを見るから、こっちまで恥ずかしい。