「あゆー」


「え?麻奈?何でここにいるの?」



塾の授業の前。

いきなり肩を叩かれて見上げると、そこには麻奈がいた。



「うん。あたしも今日からここに通うことになったの。あゆがいるなら安心だって言われて」



そう言って苦笑いをする麻奈に、なるほど、と返事をする。



「そんなにあたしが危なっかしいのかね、ウチの親は……。あゆよりはよっぽどマシだと思うんだけど」



ぼずっと隣の机に荷物を置いた麻奈に、今度はわたしが苦笑いを返した。


わたしに反論する資格がないことは、残念なことに、わたしが一番良くわかってる。



「でも、麻奈って塾通わなくても頭良いじゃん」


「うーん……まぁでも、通わせとけば安心だからじゃない?ウチの親的にも。あたしもそーゆーとこはちょっとあるし」



そういうものなのかな……?



わたしはとりあえず、筆箱とテキストを出して授業の準備をした。


そんなわたしを見て、麻奈が自分の方を向くように、視界で手を揺らす。



「てことで、明日遊ばない?」


「は?」


「10時に駅集合ね。買い物して、カラオケ行こっ!」


「え、ちょっ……!」



わたしに反論する隙を与えないみたいに、先生が教室に入ってきて授業が始まった。



少しフジのことは気になるけど……まぁ、良いよね。



そう切り替えて、わたしは黒板に集中した。