「あっ!歩巳ー!」


「うそっ……本当にいる」



昨日の場所に行くと、フジはやっぱり藤の上に座っていた。


わたしに向かって手を振りながら、足を揺らしてる。



「当たり前だろ。紅姫にここにいるように言われてるし……」



そう言うと、フジはひょいっと体を持ち上げて、飛んだ。



「歩巳と約束したからね」



フジは、わたしのすぐ横に着地して、耳元でそう囁いた。

思わず、手で耳を押さえる。


それを見て、フジは大きく笑った。


そのまま、ベンチに座ってこっちを見る。



「可愛いなぁ、歩巳は!」


「馬鹿なこと言わないで!」



わたしは、軽く睨んでそう言うと、フジの隣に座った。



葉の隙間から、細い日の光が広がる。

この、少し薄暗い雰囲気が、すごく自然で、不思議で、何だか好きだ。


そう思って上を見上げていると、隣でフジがくすっと笑った。



「何?」


「いや、すごく穏やかな顔してるなって。昨日の夜とは大違い。何か、良いことでもあった?」


「……何にもない。
てか、せっかく穏やかな気分になってたのに、フジがそんなこと言うから嫌なこと思い出した」