よゐしこのゆめ。

止まらない声は何だか気味が悪くて、ぞくっとした。


そういえば、わたしは2人が喧嘩する声を聞くのは初めてだ……。



とん、とん、と階段を下りて、リビングを目指す。

たぶん、声の発信地はそこ。



「どうもこうもない!」


「説明してくれなきゃ、こっちもどうすれば良いかわかるわけないだろ!だって“フジ”は……」



そっと覗くと、ママはリビングのソファーに座っていた。

わたしからは、ママの後ろ姿しか見えない。


パパは、キッチンの机にもたれて立ったまま、呆れたようにママを見ていた。



何となく、すっとドアノブに手がのびて……わたしは、ぎぃっとドアを開いた。


そのままぼーっと2人を眺める。


そんなわたしに気付いたのか、パパが少しびっくりしたような顔をこっちへ向けた。



「歩巳……」



その声に驚いて、ママがわたしの方を振り返った。



そしてわたしは、まるでそれが合図だったみたいに

いつの間にか家を出て、走り出していた。



まだ冷たい空気が、わたしの頬に容赦なくぶつかってくる。



寒いっていうよりも、痛い。

痛い……何が?

心が? 何で?



今痛いのは、喧嘩してるパパとママの心じゃないの?

何でわたしが痛がるの?

何でわたしは飛び出したの?

何で、パパは“フジ”って言ってたの?



思考回路なんて、もう破裂寸前で……


それに合わせるみたいに

わたしの肺も、いきなり入り込んできた大量の空気で破裂しそうになった。