カイラムは隣に同じような保存瓶が置かれているのに気付いた。

 その中にも毒素の塊らしい黒い球体が入っていた。

 ただし、カイラムの物より遥かに大きい。

 カイラムの手だと握れるかどうかだ。

「これって師匠のですか」

「ああ、そうだよ。
あんたが起きる前に吐き出したのさ」

「口から?」

「そうだよ」

 紅の口は確かに小さいほうではないが、かといって、この大きさのものが通るとは思えない。

 そもそも、こんな大きなものが喉を通るのだろうか。

「女にはね、いろいろ秘密があるのさ」

 カイラムの疑問を察して紅がにやりと笑って答える。

「それにしても」

「それにしても?」

「この大きさだと、師匠は僕の何倍も腹黒いって訳ですね。
納得しました」

「カイラム!」

 鋭い紅の一喝とともに出された右手の一閃をひらりと躱して、カイラムは身支度の為、自分の部屋へ戻った。

 紅はやれやれと言った顔で席に戻り、自分のマグカップに残ったノワルワルドを飲み干した。

 これで、またいつもの日常に戻った。