男の短く刈り込んだ黒髪が、みるみる伸びながら白くなっていくのをカイラムは、その背後からしみじみと眺めていた。

「へぇ、恐怖で白髪になるって本当だったんだ。勉強になるなぁ。でも、一体何を見たんだろう。ちょっと脅かす程度のつもりだったのにな」

 カイラムは、男と出会った直後から、歯に仕込んだ強い幻覚作用のある紅炎香を焚き、さらに、人の恐怖心を煽るアオゼニマスのヒレ毒に浸した針を打ち込んでいた。

 後は言葉巧みに自分の幻覚を見させ、頃合いを見て幻体と実体を入れ替えてしまえば、相手が勝手に恐怖体験するだけだ。

「ま、いいや。追い剥ぎに会わなきゃいいけど。だから、不幸になるって言ったのに」

 カイラムは男の運命をちょっとだけ心配して背を向け、先へ進んだ。