しかし、シャンツァの破落戸は、ローグ大陸や異大陸から来た者が多く、薬法師は知っているが、暗黙のルールを知らない場合がある。バクーは薬法師の街でもあるのだ。

「へい、坊や。おとなしくその薬籠よこしな」

 そんな無知の一人が、日の暮れかけた狭い路地に立ち塞がった。

「もしかして、強盗さんですか」

 カイラムは一応怯えたように言った。

「もしかしてじゃねぇよ。判ったなら、その籠と有り金置いて消えな」

 カイラムの倍はありそうな巨躯の男は、口元をにやつかせて言った。

 右手には首を斬るのに丁度良さそうな青龍刀を持っている。

 体の線の出る船員服のデザインと、言葉端の訛からして、ローグ大陸北部の出らしい。

「それは出来ないですよ。そんな事したら師匠に怒られちゃいます。ここは、お互いの幸せと健康のためにこのまま通してもらえませんか」

「てめぇ、何ふざけてやがる」

「別にふざけてなんて……」

「うるせい!」

 男は青龍刀を横薙ぎに一閃させた。

 空を裂く音と共に、カイラムの鼻先を刃が掠める。

 カイラムは動かず、「やれやれ」と小さく首を振っただけだった。

「止めましょうよ。こんなところで強盗なんてするより、港で働いた方が有益だと思いますよ」

「餓鬼が何言ってやがる。このっ!」

 男は青龍刀を振り上げ振り下ろした。

 今度は本当に斬りつけてきた。