薬物の流通が特化している交易都市、薬剤都市《ドラッグポリス》バクーは、同時に港町でもあった。

 ポクン・ポーラーもある薬物売買の中心地ツーレイア地区に次いで治安が悪いのは、港湾地区のシャンツァ地区だった。

 ポクン・ポーラーから紅の庵に帰るには、そのシャンツァを抜けていかなくてはならない。

 カイラムは、美貌の女薬法師紅の弟子であるため、薬法師が好む草色のケープと同色の鍔無し帽を身に着けていた。

 薬法師の位を示す黒真珠の首飾りは、見習いであるため着けていない。

 それでも、そんな格好で薬籠を下げて歩いているのを見れば、どこぞの薬法師が弟子に買い出しさせた帰りであると容易に想像できる。

 そして、高価な薬物を持っていることも推測できた。

 バクーの破落戸《ごろつき》は、いくら相手が薬法師の見習い程度だからといって、すぐには狙わない。

 誰の弟子かを確認する。手を出すと厄介な事になる薬法師が数人いるからだ。

 ちなみに、カイラムの帽子に付いている小さな炎をかたどったシンボルは、紅のものであり、絶対に手を出してはならない二人の内の一人である。