放課後でした。

私はたしか日直で、
仕事を終わらせ、
部活に向かうところでした。

一度、教室に戻ったのです。


そこにひとりでいたのが、
田野くんでした。


窓に身体を預け、
校庭を眺めていました。



「帰らないの?」

何の気なしに声をかけました。


田野くんはゆっくりと振り返りました。
一番扉側の、後ろから2列目の席と、
そこにいる鞄を持った私をみるその目は、
とてもすんでいて、
何も映していないようにもみえました。


「ああ。待ってる。」

大きすぎることも、
小さすぎることもない声で、
田野くんは答えました。


「いちかわあずみ、さん?」

彼に歩み寄りながら、
ちょっとした好奇心で、
聞いてみました。