「あたしは・・・あたしの父親は村瀬物産の役員で、総司の家はHASHIMAっていう素材メーカーを経営してる。あたしたちが婚約したのは16歳のときで、来年18歳になったら籍を入れることが決まってる」
結衣の話によると、二人の結婚は二社の経営統合の話とともに持ちあがり、今はその準備をしているのだそうだ。
村瀬物産といえば日本の五大商社のひとつに数えられるし、HASHIMAは世界中にグループ会社を持ち、15万人以上の従業員を有する大企業だ。
そんな二社の経営統合は、日本の経済を大きく変えることになるかもしれない。
「さっきの萩野はうちの子会社、御船は総司のところの関連企業の、いわゆる社長令嬢で、まあ、私たちに口答えできる立場じゃないのを理解させたというか・・・・。萩野はもちろん、御船も婚約のことを知っててそれでもあたしに意見するのか、それともその事実さえ知らないのかっていう皮肉だったんだけど。
あー、もうっ! だめだわ。亜美の前であんな気取った態度をとったこと思い出して寒気がするっ!」
ドレスからむき出しの二の腕を激しく擦る結衣を見て、やっとあの頃の、私の知っている彼女の姿を見つけられた気がして嬉しかった。
「あたしの話はそれだけ! 今日は総司がこのパーティーに呼ばれて、パートナーとしてくっついてきただけ!
それなのに総司はお父さまと一緒にあいさつ回りに言っちゃうし、なぜか萩野のケバケバしい女はいるわ、御船の鶏ガラ女はいるわでさんざんのところに、亜美がいるし・・・・。
夢かと思ったよ。夢でもいいよ・・・・・ずっと会いたかった、亜美に会いたかった・・・っ!」
結衣らしい強い口調がだんだんと弱々しくなっていき、ついにはそこに涙が混じる。
辛いのはいつも自分だけのような気がしていた。
けれど、私はこんなにも、大切な人を傷つけていた。


