「あなたが好きです。」
 佐久良椿(さくらつばき)は生まれて初めての経験をした。
―――告白
 その言葉が頭の中を駆け巡り、今自分が置かれている状況をようやく理解した。
―――‘告白’されてるんだ
 まるで他人事のように感じた。相手のほうは今にも溶け出しそうなほど真っ赤になっているのに。
 そのとき、椿はあることに気づいた。
―――この人、誰?
 椿はこの人…いや、この相手、告白している人がわからないのだ。
 この日は中学校の卒業式。椿のようにこの学校の卒業生ならば、卒業証書を持っているはずだ。
 しかしこの男子生徒は証書を持っていない。さらに学生服のデザインが少し違う。
 そのとき、椿はやっと気づいた。
―――この人、うちの学校の男子じゃない
 男子生徒は、口を開いた。
「受験のとき…ひ、一目ぼれ、しました」
―――あぁ、そうか。
 椿の中ですべてが合致した。
「返事は、しなくていいから」
 そう言うと、男子生徒は名前も告げずに去っていった。