丸一日沙織の買い物に付き合わされて、へとへとだった。
 ウインドウショッピング、何が楽しいのかと綾は疑問に思えて仕方がない。
 買い物というのは、買いたい時にそれを売っている店に行って、お金を出して買ってくる。
 そういうものじゃないのか。
 歩くだけ歩いて、買ったのは小さな熊のぬいぐるみの携帯ストラップ1つだけとは、一体どういう了見なのだ。

「おいし〜♪ 歩き疲れた後のビールは最高!」

 やっぱ疲れてんじゃねぇか、と綾は心の中で呟く。
 夕食を兼ねて、二人は居酒屋に来ていた。

(それにしても…)

 綾は周りに神経を尖らせた。
 今日は“敵”と会うのは四人目だ。
 沙織は気付いてはいないようだが…。
 1日でこの数は、少し多いような気がする。
 昨日の公園の時のように、あからさまな敵意は感じられない。
 綾は、すぐには手出しせずに様子を見守る事にした。
 それに、昨日とは違い、相手は人間だった。
 ペンションの主のように、精神を支配されている。
 さっきデパートで会ったのも、同じ。

「ねぇねぇ、やきとり食べる?」
「…テンション高いですねぇ、沙織さん…」

 沙織は朝からずっとこの調子だ。

「だって、今日は綾と水入らずでデート出来たんだもん。それに、綾が低すぎるのよ」
「へぇへぇ、すみませんねぇ…」

 沙織に気付かれないように周りに神経を張り巡らせながら、綾はビールを飲んだ。

「…うまいし♪」

 どんな時にも、冷たいビールはうまいものだ。

「でしょー? どんどん飲もうよ!」
「って…明日仕事だろ」
「関係ない!」

 沙織は最近『誰か』に変な悪影響を受けているんじゃないか、と綾は心配になってきた。
 それが誰かは、はっきり言って問いつめられたくはなかったが。
 結局、沙織に引っ張られるまま夜中まで飲み歩いて、店を三軒もハシゴした二人。
 家に帰る頃には、二人ともかなり酔いがまわっていた。

「綾〜大好き…」
「女に言われても全然嬉しくないんですけど…も〜、しっかりしろって!」

 どちらかというと、沙織のほうが酔い潰れている。