気のせいかと思ったが、綾もその“気配”を感じたらしい。
 少し真剣な顔で、前を見つめている。

「…綾?」
「あぁ…“小物”だよ。しかし今の、沙織も感じたの?」
「うん、少しだけ」

 ふ〜ん、と頷きながら、少し感心する。
 今のは、綾でも見逃してしまいそうな小さな気配だった。
 それを、沙織は確実に察知している。

(感覚が鋭くなってきたのかも知れないな…)

 綾はそんなことを思う。

「ちょっと行って来る」

 よっこらしょ、と綾は立ち上がる。

「行く、って…?」
「小物と遊んで来るよ」
「綾!」

 止める間もなく、綾は既に玄関に向かって歩いていた。
 悠も諒もいない時に、そんな事をして大丈夫なんだろうか。

「ちょっと待ってよ、綾」

 沙織も慌ててその後を追う。

「実体化もしてないし、人間に悪さしてる訳でもないから。暇潰しと修行の為に、軽く運動して来るだけさ」

 靴を履きながら、振り返らずに綾が言った。

「じゃあ、私も行く」
「…沙織…」

 隣で靴を履き始めた沙織を、綾は見つめる。

「悠くん達に、綾のこと頼まれてるのよ。それに」

 靴を履き終えた沙織は、立ち上がると綾を見返す。

「私も、暇なのよ」

 いくらか挑発的に、沙織は言った。分かったよ、と綾は肩を竦める。

「その代わり、沙織は遠くから見てること。いいね?」
「…分かった…」

 不満そうな沙織。
 だが、これは断固として譲らないからな、と綾は言い切る。

☆☆☆

 気配は、店からそう遠くない住宅地の外れにある公園から感じた。
 公園と言ってもその規模はかなり大きく、たくさんの木々が生い茂り、魚が泳いでいる池もある。
 歩いて5分くらいの距離だった。
 昼間はそれなりに子供連れの母親達がたくさん遊びに来るのだが、夜には人気もなく静かだった。
 街灯が所々に僅かに灯ってはいるが、辺りは真っ暗だと言っていい。

「さぁて、どこにいるかな〜」

 額に手をかざし、公園の中を見回す綾。
 何だか楽しそうに見えるのは、気のせいだろうか?

「……めっけ♪」

 遊具が建て付けてある一角を見つめて、綾は呟く。