「って…車は」
「悠が」
「免許持ってるの?」
「さぁ〜? でも大丈夫、運転はちゃんと出来るから」
「あのね…」

 そういう問題じゃないと思うのだが…。
 それともう一つ、疑問に思うことがある。

「どうして、車より早く帰ってくるのよ」
「あぁ、最短距離を来たからさ」

 つまり、道ではないところを通って帰って来た訳だ。
 今更この連中の破天荒な行動には驚かない。
 だが。

「誰かに見られたらどうするのよ…」

 呆れてものも言えない。
 そこへ、悠が大きな買い物袋を五個持って帰って来た。

「綾…少しは荷物を持とうとかいう気持ちはないのか?」

 その訴えに、綾は素知らぬ顔でシンクから水を汲み、乾いた喉を潤している。

「おかえりなさい、悠くん」

 慌てて荷物を持ってやろうとする沙織。
 悠は苦笑して、大丈夫だよと店の中に入ってくる。

「ただいま。…あれ、諒は?」

 そういえば遅い。三人は、顔を見合わせた。

「変だよなぁ、あたしより早く着くかと思ったのに」

 だがしばらくして、諒が帰って来た。

「何してたんだよ諒、競争してたのに」
「すまん、子猫が」
「…ん?」

 諒の上着の中を覗くと、生まれて間もないような小さい猫が、みーみーと、か弱い声で鳴いている。
 公園の近くで、捨てられていたのだそうだ。
 しばらく見ていたが、どうしても置いて来れずに連れて帰って来たという。

「…か、かぁいい…」

 …うっ、と言葉につまる沙織。
 拾って来たはいいが、まさか飼うなんて言うんじゃ…?

「さぁおりぃ〜」

 綾が子猫を抱き締め、うるうると沙織に無言で訴えかけている。

「………」

 実は、沙織は大の猫大好き人間なのだ。
 小さいだけで可愛いのに、そんな目で見つめられたら。

「なぁ、抱っこする?」

 諒に半ば強引に手渡される。
 汚れてはいるが、ふかふかして気持ちいい。
 だが、とても痩せている。
 子猫は沙織を見上げて、みゃあ、と鳴いた。

「ミルク、飲むかなぁ…」

 沙織は心の中で、もうダメだ、と呟く。