夏も終わり、また暇な季節がやってきた。
 海にいるのは、マリンスポーツを楽しむ僅かな人達だけだった。
 新学期も始まり、毎日のように悠や諒目当てで来ていた女子高生達も、今は学校にいる時間。
 開店したばかりで、まだお客さんはいない。
 店の片隅で、雑誌を読みながら時間を潰す。
 静かに流れているクラッシックの音楽以外は、何も聞こえてこなかった。
 綾達三人は買い出しに行っていて、今は誰もいない。

(ほんと、みんないないと静かね…)

 たまにはこんな時間もいいものだ。
 雑誌を読むのも飽きてきて、窓の外に目をやる。
 手持ち無沙汰で、店の前を掃除したり、テーブルを拭いてグラスも綺麗に研いたりしてみる。
 お客さんが来ないのはいつものことだけど…。

「――…遅い」

 あの三人は、買い出しするのに一体何時間かかっているのか。
 もうとっくに帰って来てもいい時間だ。
 だが、連絡をとろうにも携帯も持ってない…。

「どうせまたどっかで遊んでるんだわ」

 店の外を見ながら、沙織は呟く。
 この前、三人で買い出しに行くと言って、ゲームセンターにはまり、夕方まで帰って来なかった前例がある。
 今度こそ携帯を持たせようかと考える。
 だが、自分でもふと、可笑しくなってきた。

(なんだかんだ言って、ものすごく気にしてるよね)

 みんながいないと、寂しいと思う。
 前はこんなことなんて全くなかったのに。
 何だか堪えきれずに、声に出してくすくす笑う。
 かけがえのない存在。
 悠も諒も綾も。
 初めは訳も分からずに一緒に住むことになったが、今となってはあの三人がいない生活なんて考えられない。
 それを、改めて実感した。

「……?」

 すると、沙織は何か窓の外に違和感を感じた。
 そして、そっと窓際に近付いてみる。

「きゃぁっ!?」

 屋根の上から、綾がぶら下がっていた。

「なっ…何してるのよ!」
「あはっ…追い掛けっこ…♪」

 買い出しに行ったお店から、諒と綾は競争しながら帰って来たのだそうだ。