その闇から逃げ出したいと、いつも思っている。

『人間は、破滅を望んでいる』

 敵は確かにそう言っていた。

(いいこと言うよなぁ…)

 ビールを一口、喉の奥に流し込む。
 敵が言ったこと、あながち間違ってはいないと思う。
 何もかも消えてなくなってくれれば、辛いことや悲しいことは終わるから。
 何故、人間はそれを抱えて生きて行かなきゃならないのか。
 人がそんな感情を持ち続けている限り、この戦いは終わらないんじゃないのか。
 毎度毎度、同じ考えが頭の中をぐるぐる回る。
 だから、戦った後は毎回、虚しくなる。

「またかよ…」

 綾は声に出して、飲み終わった缶ビールを手で潰した。
 そこへタイミングよく、後ろから新しいビールが差し出される。

「…ったく…わざわざ気配消してくんなよな、諒」
「なんか邪魔されたくないっていう雰囲気だったからな」

 諒はわざとらしくそう言って綾の隣に座った。
 …勘弁してくれよ、と綾が呟く。

「悠はどうした?」
「さぁね」
「…ふ〜ん…」

 諒が持ってきた缶ビールのプルトップを開けながら、綾は言った。


「なぁ諒、たまに虚しくなることってない?」
「何が?」
「いつまでこんなことしてなきゃならないのかってさ。今考えてた」
「お前も成長しないよな」

 言いながら、諒もビールを開ける。
 やかましい、と綾は諒を軽く睨んだ。

「じゃあ何でお前らはこんな事をずっと続けてるんだよ?」
「…何でと言われても…」

 返答に困る。
 守りたい人がいるから、なんて口が裂けても言えない。

「言えないのかよ」

 してやったり、と得意そうな顔でこっちを見つめる。

「も、目的があるからだよ」

 諒の言葉に、疑いもなく綾は納得する。

「…目的、か。じゃああたしも目的を持ったら、こんな虚しさを感じなくていいのかな」

 そう言って、綾は少し考え込んだ。