いつでもフォローできるように、悠も沙織から離れない。

「やっぱり…陽子!」
「知り合い?」

 結界の中にいたのは、沙織の昔からの親友だった。
 喫茶店を開いてからは忙しく、しばらくは会っていなかったが。

「どうして…」

 球体に近づく。
 だが、静電気みたいにバチバチと火花が散って、陽子に触れることが出来ない。

「陽子!」

 呼びかける。
 すると、陽子はゆっくりとこっちを見上げた。

「沙織…?」

 虚ろな目付きで、陽子は言う。

「しっかりして、今助けるから!」
「下がって、沙織ちゃん。俺が結界を崩してみる」

 悠が言って、結界に手を伸ばした。
 スパークする火花。
 少し顔をしかめて、悠はもう一歩、足を踏み出した。

「…来ないで」

 悠の歩みに、陽子は怯えるように後退りした。

「どうして…陽子?」
「もうすぐ、何もかも終わるの。嫌なことからみんな、解放される…」
「…何言ってるの?」

 マイナスの感情。
 しばらく会わないうちに、明るかった陽子をそんなにまで追いつめる何かがあったのか。

「しっかりしてよ…」

 結界に邪魔されて、近づくことすら出来ない。
 観覧車の方で時折閃光が走っているのが見える。
 綾と諒が、今も戦っている。

「何とか結界だけでも解除しないと、彼女はどんどん奴に力を送ることになる」

 悠は再び、結界に手を伸ばす。
 すると、陽子の顔つきが憎しみの表情へと変わった。

「…あんたも…私の邪魔するの…」

 バチィッ!
 雷が落ちたような音がする。
 悠はバランスを崩し、危うく下に落ちそうになるところを、何とか沙織が支えた。
 陽子はゆっくりと立ち上がり、こっちを睨み付けている。

「悠くん」
「大丈夫」

 沙織の手を握り、お互いに支え合うようにしながら、二人は陽子の方を見た。

「死にたい…」

 陽子は、天を仰いでそう言った。
 その目から、涙が溢れる。