背後で絶え間なく閃光が飛び交っている。
 敵の“気”はますます強くなっていくのを感じた。
 余裕はない。
 一刻も早く、この状況を何とかしなくてらならない。
 悠がジェットコースターに向かって走っていると、右手の方から声がした。

「悠くん!」
「…沙織ちゃん?」

 立ち止まる悠。
 沙織が息を切らせながらこっちに駆け寄ってきた。

「よかった、無事で…」
「今のところはね…それより、あそこ」

 悠の言葉に、沙織は指さされた方向を見た。
 暗くてよく見えないが、ジェットコースターの一番高い場所に、人が立っているようだった。

「あれも敵なの?」
「…いや違う。あの子は人間だよ」
「どうしてあんな場所に…?」

 まだ風は吹き荒んでいて、間違って足を踏み外したら危険だ。

「今回の敵のパワーの源は、きっとあの子だ」

 また走り出す悠を、沙織は追い掛ける。

「どういうことなの?」
「多分あの子は、恨みとか妬みとかのマイナスの感情を心の中に抱えてる。その感情に付け入って、それを媒体にして敵はとんでもない力を発揮している」
「…綾達は?」
「苦戦してるよ。だから、早くあの子を何とかしないと…」

 ようやく二人はジェットコースターに辿り着く。
 沙織は上を見上げた。
 昼間乗ったから分かる、コースターの一番高い場所は、地上約30メートル。

「とにかく上に登ろう」

 そう言って悠は梯子を登り始めた。
 沙織もそれに続く。

「気をつけて」
「うん」

 悠の言葉に、沙織は頷く。
 一瞬、高所恐怖症は大丈夫なのかという考えが頭を過ったが。
 本当は、もっと叱られるかと思っていた。
 何も出来ない自分がここに来ると、もしかしたら足手まといになるかと思った。
 だが、悠は何も言わずに、受け入れてくれた。
 それが一番嬉しかった。
 なんとか一番梯子を登りきり、レールを見渡す。
 そこにいたのは、若い女だった。
 薄い球体の結界の中に、膝を抱えて座っている。
 だが、その姿に沙織は見覚えがあった。

「…陽子?」

 風にあおられながら、危なっかしい足取りで沙織はその球体に近づく。