自分が知っている大家さんは、もっと年配の…。

「いらっしゃい、よく来たわね、沙織さん。どう? お店は順調?」

 沙織ははっとした。
 声が、店を貸してくれているお婆さんにそっくりだった。

「…あ、その節はありがとうございます」

 沙織は深々と頭を下げる。
 婦人は、優しく笑った。
 姿は違うが、確かにこの人なんだ。
 沙織はそう思った。

「ゆっくりしていってね。…といっても、あまりゆっくりは出来ないでしょうけど…」

 婦人はそう言って、ハーブティーを入れてくれた。
 沙織以外は、少し深刻な顔をしている。

「今日は、あなたに少しお話があるのよ、沙織さん。だから、私がここにいるの」
「…私に、ですか?」

 頷く婦人。
 少し不安になって、沙織は綾の方に視線を送る。

「大丈夫だよ。襲われたりしないから」

 綾はそう言って、ハーブティーを飲んだ。

「夕ご飯までにはまだ時間があるから、今のうちにお風呂にでも入ってきたら?」

 婦人の言葉に、綾が真っ先に「そうしよ」と荷物を持って部屋へ向かった。
 まるで、ここに来たことがあるかのように。
 悠と諒も、同じく部屋へ向かう。
 その行動に、沙織はふと違和感を感じた。

「あの…」

 最後に残った沙織は、婦人に声をかける。

「みんな、ここには来たことがあるんですか?」
「いいえ。今日が初めてよ」

 変わらない優しい笑顔。

「だって、ここに来るのは“あなた”が決めたことでしょう?」

 婦人に言われて、沙織は気がついた。
 今回の旅行は確かに沙織が言い出して、温泉と遊園地のあるこの高原を提案したのも沙織。
 このペンションを予約したのも自分だった。

「…沙織さん、もう少しで分かるわ。だから今は、あまり考え込まないで?」

 相変わらずの笑顔で婦人は言う。
 ――分からないから考えているのだ、と沙織は思う。
 だがそのまま婦人は何も言わずにキッチンへ行ってしまった。
 仕方なく、沙織も綾が入った部屋に向かう。

「沙織? 風呂一緒に入る?」

 綾はもうタオルを首にかけて、お風呂に行く準備万端だった。

「うん、一緒に行く」

 沙織も用意して、お風呂に向かう。