「ねぇ、悠くん…綾っていつ疲れるのかしら…」

 道中あれだけ喋り続け、遊園地に到着した直後に大喜びで走ってていく綾を見ながら、沙織が言った。
 綾はすでに、この遊園地で一番怖いというジェットコースターに向かって一直線に走りだしている。
 諒も案外嫌いじゃないらしく、楽しそうに綾について行った。

「さあね…俺はあぁいう絶叫系は…」
「え〜悠くん、苦手なんだぁ」

 くすくす笑う沙織。

「高い所は、諒と綾に任せるよ」

 苦笑する悠。
 もしかして高所恐怖症なのだろうか。
 一度悠が絶叫する姿を見てみたい、という願望が、沙織の頭の中を駆け巡る。

「ん? どうしたの」
「えっ? な、何でもない何でもない」

 首をかしげる悠。

「せっかく遊びに来たんだから、思いっきり楽しまなきゃね。行こう、悠くん」

 沙織は悠の手を引っ張った。
 高いのだけは勘弁してね、と悠は苦笑しながら、沙織に付いていく。
 ひととおり遊んだ後、四人は今日お世話になるペンションに向かった。
 赤い屋根に真っ白い壁の、可愛らしい小さな建物だった。

「かっ…かわいい」

 すっかり気に入った様子の沙織。
 だが、綾は挨拶もせずにどかどかと勝手に中に入って行く。

「ちょっと…」

 止めようとして、やめる。
 沙織も最近、みんなのやることには口を出さなくなっていた。
 仕方なく、黙って綾についていくことにする。
 建物の中には、中年の品の良さそうな女性がニコニコしながら立っていた。

「婆さん…なんでこんなところにいるんだよ?」

 綾が言った。
 知り合いなのだろうかと、沙織はその女性と綾とを交互に見つめた。
 とてもお婆さんと言える年齢には見えないのだが。
 悠と諒も、そんな綾の行動を咎めることもなく黙ってリビングに荷物を置いて、一服している。

「ねぇ、お知り合い?」

 沙織は悠に聞いた。
 その質問に、悠は困ったような笑みを浮かべた。

「沙織ちゃんも知ってる人だよ。お店の管理人」
「えっ?」

 沙織は驚いて女性をまじまじと見つめた。