「凄く…綺麗…!」

 沙織は思わず、涙を滲ませた。

「なっ…泣かすつもりじゃ…」

 その涙の訳が分からずに、慌てふためく綾。

「違うの…あんまりきれいで…感動した」

 そうかぁ…と、ほっとする綾。

「怖くなかった?」
「不思議とね」

 沙織は笑った。
 この時すでに、沙織はどんなことがあっても『信じる』ことに決めよう、と心に誓っていた。
 …ふと、綾はその場に座り込む。

「どうしたの?」
「…い、いやぁ…あれだけ悠に無茶すんなって言われた意味が、今分かった…」

 そう言われて、沙織ははっとする。
 そういえば綾は、この前の傷がまだ完全に治っていないのだ。

「綾! すぐ帰ろう! 帰って寝なきゃ!」

 今度は沙織が慌てる。

「いや、大丈夫…」
「大丈夫じゃないでしょ!」
「ヤバい…今帰ったらきっと、悠が玄関で仁王立ちして待ってる…」

 その光景を頭の中で思い描き、笑っていいものかどうか悩む沙織。
 さっきの一件はきっと、悠や諒には分かっているのだろう。
 あれだけ、まだ本調子じゃないんだから無茶はするな、と釘を刺されていたのに。
 これは、怒られても仕方がない。

「諦めなさい、綾」

 目一杯の同情を込めて、沙織は言った。
 あーやだよー、と頭を抱える綾に、帰ったらちゃんと綾の弁護をしてあげよう、と沙織は心に誓った。