「俺達も、こんな事は早くやめたいと思ってる…どういうことかは分からないけれど、最近やたらと力の強い敵がこちら側に現れるようになってきたんだ。その目的を探るのが、今は先決だから…」

 沙織は黙っていた。
 この世界の人間はみんな、毎日を精一杯生きている。
 それを“遊び”のようにかきまわされるのは、許しがたいことだった。
 でも、悠や諒達も同じ世界の人間なのだ。
 もしかして、二人も…自分達を惑わす存在なのか…。
 ――どこまで、信じていいのか。
 心の中でそんな疑問が浮かんできて、沙織ははっとした。

「…少し…一人になりたいから…休むね」

 沙織は立ち上がって、リビングを出ていった。
 悠は黙ってそれを見送り、タバコを取り出して火を点けた。
 そして、ため息と一緒に煙を吐く…。

☆☆☆

『お前らなんか信用出来るか! 今すぐあたしの目の前から消えろっ!』

 綾はそう叫ぶ。
 衝撃波をコントロールすることが出来ない為、滅茶苦茶にこちらに向かって攻撃を仕掛けてくる。

「おい悠、あのままじゃあいつ…!」

 四方八方から飛んでくる綾の攻撃はまるで、かんしゃくを起こしている幼い子供のようだった。
 そんな攻撃は、悠の防御壁によって簡単に防ぐことが出来る。
 だが、あんな無茶苦茶な攻撃を続けていたら、綾の精神は…。

「危険だな」

 防御を緩めることはなく、悠は眉をひそめた。
 最早、綾の風貌は尋常なものではなくなっていた。
 明らかに、精神を乗っ取られる直前の状態。
 このままじゃ綾は。

「諒、なんとかあの子の動きを止められるか?」
「任せろ」

 悠の防御壁を抜け出して、諒は綾に向かって跳躍した。
 まだ綾は攻撃の手を緩めない。
 だが悠はあえて、諒の動きをフォローすることはなかった。

「…っ」

 綾の滅茶苦茶な攻撃は、諒の肩と脇腹を掠める。
 更に悠にまで。
 こうなると、もう綾の力の暴走は、綾自身にも止めることは出来なくなっていた。

『…た…っ…』

 綾が言おうとしている言葉。

「そんなこと…っ!」

 言いつつ、諒はあと一歩で綾に手が触れる距離まで到達する。