まず、沈黙を破ったのは沙織だった。

「私…私にも能力が…あったっていうこと…なのかな?」

 沙織は恐る恐る、こう聞いてみる。

「…まぁ、そういうことになるね」

 沙織の言葉を、悠はあっさり肯定する。
 でも、まだ完璧に力は発揮されていない。
 それは、沙織がその能力を自分でコントロール出来ていないからだ、と悠は言った。
 それに加えて、沙織が“鍵”だというのは敵の勝手な解釈なのだろう、と悠は推測した。

「俺達は、鍵だなんて思っていないよ。事実、沙織ちゃんがここにいようがいまいが、奴等はこっちの世界に来れるわけだしね」

 悠はそう言って微笑んだ。
 いつもよりゆっくりと、一言一句、慎重に言葉を選んでいるかのような口調だった。

「でも、向こうにしてみれば…かなり、邪魔ではあるよな」

 諒が口を挟む。
 敵にはもう沙織の存在が知られてしまっている。
 敵にとって邪魔な存在である以上、これからしばらく、沙織のガードが必要になる、と。

「でも、私どうしたら…」

 沙織は困惑しているようだった。

「もちろん、何も心配ないから。普段どおりにしててくれればいい」

 悠が言った。
 でも、沙織の気持ちは晴れない。
 自分だけが、何も知らずにただ守られているだけなんて…。
 綾だって、ある程度は自分の能力の事や、悠や諒達のこと、自分のやるべきことをちゃんと理解して、行動している。
 沙織はまだ、何も知らない。
 悠達が今戦っている敵のことも…自分のことすら、何も分からない。

「ごめん、沙織ちゃん…正直言って俺達も、何も分かってないんだよ。今まで一緒に暮らしてきて、沙織ちゃんに何らかの能力があるんじゃないかって事は、薄々感じてはいたけどね…」

 それは、嘘偽りのない、正直な悠の言葉だった。
 悠の話では、まだ沙織の能力は未知数で、今はそれがどういうものなのか探っている最中なのだそうだ。
 だが敵は、もしかして自分達よりも沙織の能力の事を理解しているのかも知れない。
 沙織を“鍵”と言い、それを壊そうとしたことが何よりの証拠だ。

「ねぇ…二人が存在する世界って…どういう世界なの?」