だが敵は軽く攻撃をかわすと、真っ直ぐに沙織の方へ向かっていった。

「てめぇっ…!」

 あくまで狙いは沙織なのか。
 綾がその間に割って入る。
 そして、至近距離から閃光を放った。

(当たった…か?)

 次の瞬間、綾の体が宙を舞った。

「綾っ!」
「このっ…」

 地面に叩きつけられる直前に、身体を反転させて体制を立て直す綾。
 まるでうざいというように、女の姿をした“それ”は綾を睨み付けた。
 その隙に、沙織は綾の方へ駆け寄る。

『鍵…を壊せば…』

 女は言った。
 意味が分からなかったが、沙織は何故か悪寒が走った。

「鍵、って…」
「多分、あんたのことだよ、沙織。あいつ、何を勘違いしてんだか…!」

 沙織は関係ねぇのにな、と綾は言った。
 その鍵を壊すということは…。
 そして、女は軽く右手を振った。

「…させるかっ!」

 それよりも一瞬早く、綾が両手を前に突き出す。
 すると、目の前に薄いブルーの膜が出来た。

「きゃぁっ…」

 だが、女の放った衝撃波のようなものは、綾の防御をいとも簡単に突き破る。
 幾分か衝撃は緩和されたものの、沙織と綾は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「くっ…」

 沙織を抱えるようにして起き上がりながら、どうすればいい…と綾は考えを巡らせる。
 力の差は明らかに目に見えている。
 このままじゃ、諒達が気付くまで無事でいられるかも怪しい。
 …何か対策は。

「大丈夫か」
「う、うん、平気」

 綾に支えられ、なんとか沙織も起き上がった。
 あれは、自分のことを“鍵”だと言った。
 自分がいなければ、あれはこちらの世界に来やすくなる…?

「ねぇ、綾」

 そこまで考えを巡らせてから、沙織は言った。

「私が“鍵”なら、あの場所から出ない方がよかったんじゃないのかな…」

 もちろん、確信はない。
 相手から視線を離さずに、綾は聞き返した。

「どういうこと?」
「よく分からないけど…鍵を閉めるの」

 それは、沙織自身も説明のしようがなかった。