海が見下ろせる小高い丘に、小さな灯台を兼ねた展望台と公園がある。
 確かに、沙織の言うように平日の昼間は人はいない。
 店からもそんなに離れてはいなかった。
 そこだな、と綾はハンドルを切った。

☆☆☆

 気持ちいい風が吹いていた。
 沙織は、ここから見下ろす海の景色も大好きだった。
 この街で店を開きたいと思ったのは、こんな綺麗な景色が一年中見られるなんて素敵だったから。

「…ありがとう、綾」

 潮風に吹かれる前髪を押さえながら、沙織は言った。

「な…なんだよ、いきなり」

 いきなりの沙織の言葉に、綾は驚いている。

「私、何も知らなくて…何もできないのに…」

 綾は平静を装ってはいるが、そんなに余裕がないんだろうということは、沙織にも薄々分かっていた。
 悠も諒もいない、こんな時に何も出来ない自分が口惜しい。
 だが綾は、笑って言った。

「何言ってんだよ。そりゃぁ…友達、だから…さ」

 最後の方は照れたように、綾はぼそっと小声で言う。
 沙織は微笑む。

「一緒に頑張ろう、ここを凌ぐまで」
「うん、一緒に!」

 綾の言葉に、沙織は力強く頷いた。
 ――だけどな、と綾は思う。
 今回、自分の攻撃があれに通用したことがない。
 確実に相手の方が格上だ。
 しかし、やられる訳にはいかない。今ここでやられたら、沙織は。
 自分1人なら…あるいは、ここで自分自身を終わらせることもできたのかも知れないが…。

(…さぁて、どうすっかな)

 綾は、なんとかいい方法はないかと、考えを巡らせる。
 いつもなら。
 諒の力は攻撃専門、悠は防御。
 人間である綾は、二人に比べて攻撃も防御も弱かった。

 …ざわっ…。

 風が、揺らめいた。
 綾は身構える。

「…お早いお着きで」

“それ”は煙のように現れた。
 いつか海の上に現われた時のように、もやもやとしたものがだんだん実体化していく。

「なぁんでわざわざ美女になるかなぁ!」

 相手が完全に実体化しないうちに綾は攻撃を仕掛ける。