沙織は、言っていいものかどうか迷ったが、思い切って口にしてみる。

「悠くん達みたいな関係、私は今まで他の人と築けたことはなかったから…」
「さっき言ってた、信じるってこと?」

 悠の言葉に、沙織は頷く。

「特別なことじゃないよ。沙織ちゃんだって、誰かを信じて生きてきてるはずだよ」

 そう言って、悠は笑う。

「もちろん、そうなんだけど…なんかこう、もっと奥のほう、深いところで信じ合えてる気がするの」
「……?」

 悠は不思議そうに沙織を見つめる。

「私は今まで誰かに嫌われるのが怖くて、言いたいことが言えなかったり…」

 友達の前でも、親の前でも。
 常に、相手の顔色を伺うような所が、自分にはあった。
 でも悠達を見ていると、そんなことは微塵も感じられない。
 まるで、自分を全部曝け出しているように思えて。

「そう見える?」

 悠は苦笑した。

「実際、ここまで来るのが大変だったんだよね…」

 外を見つめてはいるものの、悠はどこか、景色ではない遠くを眺めているような気がした。
 ふと、悠は海岸線を歩いている諒と綾の姿を見つける。

「我儘で心配かけまくっている女を連れてくるの、なんとか成功したらしいよ」

 悠が冗談混じりに言った。
 しばらくすると、二人は雨でずぶ濡れのまま店の中に入ってくる。
 沙織は一瞬、綾と初めて出会ったあの日のことを思い出した。

「…まぁた…少しは考えてよ、雨に濡れたら風邪を引くかもとか…」

 タオルを二枚取り出して、呆れ顔で沙織が言った。
 ごめんごめん、と綾はそそくさと部屋の中へ入って行く。
 その様子を、沙織は不思議そうに見送った。

「どうしたの、素直に謝るなんて…諒くん何か彼女に言った?」
「照れてるんだろ、きっと」

 訳が分からない。
 首をかしげている沙織に、さすがに言葉が足りないと思ったのか、諒は言葉を付け足す。

「俺は、沙織は綾の友達だって言っただけだ」
「…当たり前でしょ」

 当然のごとく。
 その意味を察した悠が、横で笑いを必死に堪えている。

「諒くんも、早く体拭かないと」

 着替えてくるよと言い残し、諒も部屋に入っていった。