「海にでも行ったのかな」

 沙織は窓から海岸を見渡した。
 悠と諒は放っておけと言うが、外は雲行きが怪しくなってきている。
 波も高いし、夕立が降りそうな気配だ。
 砂浜いっぱいに広がっていた海岸のパラソルも、次々に閉じられている。

「やっぱり私、ちょっと探してこようかな?」

 心配そうに言う沙織に、口いっぱいにスパゲッティを詰め込んだ諒が顔を上げた。

「いいよ。これ食べたら、俺が行く」
「雨も降りそうだし…そうしてくれる、諒くん?」

 分かった、とまたガツガツ食べ始める諒を見て、苦笑しながらもようやく席につく沙織。
 そして、早々と昼食を食べ終わった諒は店を出ていく。
 それを見送ってから、沙織は悠に言った。

「いつかのあれ、襲ってきたりしないの…?」

 雨だけじゃなく、何故かそっちのほうも気になった。
 もし一人でいる時に、またあれに襲われたら。
 だが悠は、紙ナプキンで口元を拭きながら笑う。

「来たら分かるから大丈夫だよ」

 悠曰く、もしも敵が襲ってきたとしても気配ですぐに分かるのだそうだ。
 そんなものなのか、と、沙織は思った。
 綾の言うように、最近はあまり深く考えないようにしている。
 いくら頭で考えても、答えなど見当もつかないのだから。
 何もない時は全く普通の生活をしていて…それが続くとなんだか、この前のことが嘘のように思えた。

「…綾はね、たまに一人になりたいんだよ」

 悠の言葉に、沙織は、フォークを持つ手が止まる。
 …本当に、この連中はどうして相手の行動が手に取るように分かったりするんだろう。
 今まで、自分をここまで分かってくれる人間がいただろうか?
 一番仲のいい友達も、こんな風には付き合えていないような気がする。
 自分が楽しい時は一緒になって楽しそうにしてくれる。
 悲しい時は、一緒に悲しむ。
 そうやってずっと、一緒に居るのが『友達』…?

「どうしたの、沙織ちゃん?」

 ご馳走様、と丁寧に両手を合わせてから、悠は沙織に聞いた。