一瞬だけ、倉庫内を静寂が包む。
 ――だが。

「…うるさい! 友達なんかいらない!」

 今までとは違い、あきらかに動揺したような口調で美紀は言った。
 そして、まるで子供が泣いて暴れ出すように、めちゃくちゃな攻撃を仕掛けてきた。

「…友達なんか、いらない?」

 次々と避けながら、綾は呟く。

「何もかも、この世界から消えてなくなっちゃえばいい…っ!」

 美紀の言葉を聞いて、綾はその場に立ち尽くした。

『お前らなんかいらない、この世界から消えろっ!』

 悠や諒と出会った時、綾が言った言葉。
 美紀の放った攻撃が、頬を掠めた。

「美紀!」

 綾は叫ぶ。
 名前を呼ばれ、戸惑う美紀。

「…あたしが、美紀の友達だろ?」

 夏に、友達になってくれと言われた時。
 綾は、返事が出来なかった。
 自分に関われば、危険に巻き込まれるかも知れなかったから。
 だけどあの時、ちゃんと話を聞いてあげていれば…、
 ――孤独は嫌だ。
 そんな気持ちが、今また身に染みて分かる。
 ――理解出来るから、言える。

「孤独は…嫌だよね…」

 綾は、そう呟いた。

「この世界が変わってしまったら、一生友達なんて出来ないよ、美紀」

 いつの間にか、攻撃は止んでいた。

「友達は…支配するものじゃないからね」

 そして、綾は彼女の前に降り立つ。

「あたしが、友達になる」

 抱き締めた美紀の身体は、小刻みに震えていた。
 そして、次の瞬間。
 綾はコンテナにもろに弾き飛ばされた。
 そして、倉庫の壁に体を打ちつけ、倒れる。

「…どうして…?」

 美紀は、その場にへたりこんだ。

「どうして避けないの…」
「あたしも、美紀と同じだったから…あんたの気持ち、すっげぇ分かる」

 美紀は、何も言わない。綾はゆっくりと立ち上がった。
 怪我のせいで、思うように力が入らない。

「あたしは、かけがえのない友達が出来たから…今からそいつを、助けに行くんだ…でもその前に、美紀のことを何とかしなきゃと思ったから…」
「………」

 美紀は黙っていた。
 もう、攻撃も仕掛けてこない。
 綾はそのまま、ゆっくりと外へ向かって歩きだした。