それから丸1日過ぎても、沙織は食事も取らずに部屋から一歩も出て来なかった。
 心配して悠がスープを持って行ったが、一人にしてほしいと突き返された。
 店の方は相変わらず開店休業状態で、沙織があんな調子でも仕事面で困ることはなかったのだが。
 そんな沙織の態度を咎めることもなく、ただじっと見守るだけの三人。
 …ではなく、二人。

「う〜…」

 苛々と、煙草のフィルターを食い千切りそうな勢いの綾は、徐々にストレスがたまってきているようだった。

(沙織の事より、このアホ暴走娘を押さえることの方が大変だな)

 店の中を歩き回っている綾を見ながら、諒はそんなことを真剣に考えている。

「いい加減落ち着けよ、綾」

 見兼ねた諒が言った。

「落ち着いてるよっ!」
「…どこがだよ」
「だって…あたしもう見てられないよ、あいつ…何とかしてやれないの!?」

 あんな沙織を見たのは初めてだ。
 あの一樹という男は、相当本人にとってショックなことを沙織に吹き込んだに違いない。
 そう思うと、綾はいてもたってもいられなかった。

「やっぱヤツ探してくる」
「いや待て待て」

 本当に、こんな状態の綾は手が付けられない。
 諒は止めるのに必死だ。

「おい悠〜、お前も何とか言えよ!」

 珍しく諒が、悠に助けを求めている。

「だって悠にも気配が分からないんだろ!? だったら自分の足で歩いて探すしかないじゃんか!」

 腕を掴む諒を引きずったまま、綾は店の入り口に向かっている。

「…それで見つかればいいんだけどな」

 店のカウンターの席で、悠は呑気に煙草を吸いながら言った。
 そんな態度も、綾の気に障ったらしい。

「よくそんなに落ち着いていられるよね、悠!」

 掴まれていた諒の手を振り払って、綾は悠に詰め寄った。

「今、何か出来る事あるだろ? じっとしてるならあのキザ野郎探してさ…!」
「探してどうするんだ、綾?」

 悠は変わらずに冷静な口調で言った。

「ぶん殴ってくる!」
「…無駄だ。お前の力じゃ、あいつの強力な結界を破ることは出来ない」
「………!」

 真意を突かれ、思わず黙り込む綾。