相手は二人きりで話がしたいと言っていた。
 だが、一人で来いとは言わなかった。
 当然、悠と諒も一緒に駅前のビルまで付いてきたのだが。

『必然的にそうなるだろうけどね』

 男の言ったその言葉の意味が、ようやく分かった。

「悠くん、これ…?」

 ビル全体が結界に包まれている。
 それは、沙織にも分かるような強力なものだった。
 ビルの前に立ち尽くす三人。
 そして、背後には明らかに殺気を放っている群衆が、三人を取り囲んでいる。

「用意周到だな」

 背後の群衆と目の前の結界を見て、悠が呟く。

「こいつらは俺がやる。悠、お前はこの結界をなんとかしろ」

 諒が身を低くしながら言った。

「わかった。だが諒…」
「わかってるよ。こいつら、操られているだけの人間だからな」

 言いつつ、諒は単身、群衆の中に飛び込んでいった。
 沙織は、ビルの入り口を覆っている薄い膜のような結界に近づいた。
 だが悠に止められる。

「危ないよ、沙織ちゃん。何が起こるかわからない」
「うん、でも…」

 沙織は結界に手を伸ばした。
 だが意外にも、何の障害もなく建物の中に入ることが出来た。
 この結界の効力は、沙織には通用しないようだった。

「悠くん、私、このまま行くわ。じゃないと綾が…」

 悠は少し悩む。
 敵の狙いは沙織なのだ。
 このまま行かせれば、沙織の身に何が起こるか分からない。
 電話で相手は、二人で話をしたいと言ったらしいが…。
 だが綾のことも考えると、沙織を先に行かせて自分は一刻も早くこの結界を解くことが最善策のように思えた。
 ――どっちにしろ、危険は伴うが。

「…わかった。俺達もこの結界が解けたらすぐに向かうよ。それまで無茶はしないで」

 無茶はするなと言われたが、後ろでは諒が必死に戦っている。
 大勢を相手に怪我をさせず、しかも結界を解くために集中している悠の邪魔をさせないようにするのは、大分苦戦しているようだった。
 わかった、とだけ頷いたが、急いだ方がいいと判断した沙織は、急ぎ足で中に入って行った。
 ビルの中に人影がないのが気になったが、エレベーターを降りると指定された店が見えた。