そして、辺りがすっかり暗くなった頃、いきなり部屋の電気が点いた。
 綾は鋭い視線を部屋の入り口に向ける。
 すると、背の高い若い男が部屋に入ってくる。

「…誰だよ」

 座ったままの姿勢だが、いつでも攻撃できるように神経を尖らせる。

「無駄な事はよしたほうがいい…ここでは、キミの力は使えない」

 その男は言った。
 これが今回の敵の“中心”なのか。
 ――だが。

「あんた…人間?」

 思わず、綾は聞いてみる。

「キミだって人間だろう?」

 バカにしたような笑みを浮かべ、男は答えた。
 その態度に、明らかにむっとする綾。

「気安く呼ばれる筋合いはないね。知り合った覚えはないんだけどな!」

 言いつつ、綾はその手から衝撃波を繰り出した。
 だが、全く力が出ない。
 それでも綾は、男に飛び掛かる。
 自分でも驚く程、やけに体の動きが遅かった。

「……っ…」

 気のせいじゃない、綾はだんだん体の力が抜けていくのを感じた。
 そして、立っていることすらままならず、その場に膝をつく。
 これが、この結界の作用なのか。

「少しは理解してもらえたかな?」
「何の為に…こんなこと…」

 問いかけに、男はしゃがみこんだままの綾の目の前に座る。

「僕は今、強力な力を得て仲間を増やしている最中なんだ」

 綾は男を睨み付ける。
 男はまるでそれを気にせずに続けた。

「この世界を、自分の思い通りにする」
「本気でそんな事言ってるのか、お前…バカじゃねえの?」

 そう言った途端、男に首を掴まれ、床に押し倒された。

「あまり生意気な口は聞かない方がいい…殺されないようにね」

 ぎりぎりと首を締め付けられて、息が出来ない。
 ただの馬鹿力じゃない、体中が痺れるような感覚だ。
 もがこうとしても、体に力が入らない。

「選択肢は二つだ。俺に従って生き延びるか、従わずに死ぬか」
「うるさい…お前、あたしのタイプじゃねぇんだよ」

 その途端、男はそのまま綾の身体を壁に向かって投げつけた。
 受け身も取れずに、綾はそのまま壁に激突し、床に転がる。