その殆どが、悠と諒目当てなのは明らかだった。
 沙織は軽くため息をつく。

「まぁ、いいか…」

 おかげで、閑古鳥が鳴いているこの店も繁盛しているのだから。
 それにこの三人、出ていく気など全くないようだ。
 あれこれ考えても仕方ないから、しばらく放っておこうか。
 沙織は、本当に不本意ながらも、そうすることに決めた。

☆☆☆

 営業が終わって、四人はリビングでくつろいでいた。
 だが、当たり前のようなこの連中の態度はどうかと思う。
 綾はテレビの前に堂々と横になり、悠は沙織の愛読書である恋愛小説を読みふけり、諒はさっきから部屋の隅で腹筋と腕立て伏せを繰り返している。

「…ねぇ、みんな自分の部屋があるんだから、そっちに行って好きなことやれば?」

 沙織はこんな提案を、他の三人に投げ掛けてみる。

「…みんな一緒にいたほうが楽しくない?」

 本から目線を上げて、悠が言った。
 何故かその目は、何かを訴え掛けるように潤んでいる。

「で、でも…みんなそれぞれのことしてるみたいだし…」

 そんな悠の瞳に負けそうになりながらも、沙織は更に食い下がる。

「戻りたくなったら、勝手に行くだろ」

 腕立ての姿勢のまま、諒が言った。
 そのぶっきらぼうな言い回しに、沙織はむっとして諒を睨んだ。

「諒…その無愛想な言い方、何とかならないのか?」

 そうそう。悠の言葉に、沙織は心の中で大きく頷いた。

「そりゃ無理ってもんだよなぁ。諒の口の悪さと無愛想は今に始まったこっちゃねぇし」

 今までテレビのお笑い番組に集中していた筈の綾が、すかさず横から茶々を入れる。

「やかましい、てめぇに言われる筋合いはねぇ!」

 本当に、口の悪さといったら、どっちもどっちだ。

「あたしは生まれた時からこんなだもん。今更直るわけないじゃん?」
「俺だってそうだ」

 う〜、と睨み合う二人。
 やめなさい、と悠にたしなめられる。

「ふん。ねーお風呂、先に入ってもいいかな、沙織?」

 綾に呼び捨てにされ、沙織は何故かどきっとした。

「あ、う、うん、いいわよ」

 沙織が言うと、綾は楽しそうに浴室に行った。