「あなたの言いたい事、素直にちゃんと話してみて? きっと、分かってもらえるから…」

 綾はふと、沙織の変化に気が付いた。
 沙織の身体の周りに、不思議な力を感じる。
 それは、諒の持つような攻撃の力ではなく、悠の持つような結界の力でもない。

(…何だろう…)

 今までに感じたことのない感覚。
 強いて言えば、悠が使う“癒し”の力に似てなくもないが…それとも少し違うような気がした。

「大丈夫だから…ね?」

 沙織はそう言って、女の子の手を握った。

(………!)

 綾は少し、目を見張る。
 女の子に“取り憑いて”いたものが、一瞬にして消えたのだ。

「…あれ…ここ、どこ?」

 女の子は、初めて口を開いた。

「お腹、空いてない?」

 沙織は笑って、女の子に聞いた。
 正気に戻った女の子から家の連絡先を聞き出して、一時間もすると母親が迎えに来た。
 その間、女の子は沙織が作った海老ピラフを、美味しそうに食べていた。
 母親は沙織にお礼を言って、女の子を連れて帰って行った。

「さぁて、これで本当に今日の営業は終わりね」

 う〜ん、と伸びをして、沙織は言う。
 だが、綾にじ〜っと見つめられていることに気が付いた。

「…な、何よ、綾?」

 心なしかたじろいで、沙織は聞く。

「沙織さ〜…ホントはさ〜…」

 そう言い掛けて、やめた。
 代わりに出るのは、大きなため息。

「何でもない。あたしの夕メシはぁ?」

 腹減った〜、と言う綾に、沙織はすぐに夕ご飯の支度に取り掛かる。

「今日は材料が余っているから、夕食は店のメニューね」
「うん、あたしスパゲッティがいい」
「かしこまりました♪」

 鼻歌交じりに料理を始める沙織を、綾はカウンターに頬杖をつきながら見つめている。
 沙織の、あの力は一体何なんだろう。
 そう本人に聞いたところで、まるで分かっていないだろう。
 沙織は無意識に、その能力を使っている。
 誰にも使えない、特殊な能力を。
 でもまだ、このままそっとしておく事に、綾は決めた。