ナツが声をあげる。
「……からかわないでください」

「……」

沈黙が訪れる。

タイミング良くか悪くか
「おつー」
と呑気な声で入ってくる人影があった。
「くそあちいねー」
パタパタと薄い教科書を団扇かわりにした4年の楓さんだ。
「お、アキ帰ってきたんか」

「楓さん……」
ナツがホッとした声で呟いた。
「お、ナツよ。よかったな彼氏帰ってきて」
そういうとヨシヨシとナツの頭を撫でた。小柄なナツと長身の楓さんの良くある風景だ。正直少し嫉妬してしまう。
「……もう、楓さんまで」

からかうのはやめてください、とナツは荷物をまとめ出した。

「私、彼氏いないですし」

「は?」
楓さんが混乱していた。
「わかりました!ドッキリしようったってそうはいきませんよ」
楓さんいたずら好きですからね、とナツがいう。
「バイトもあるんで今日はこれで」

「お疲れさまでした」
楓さんに向かっていうとぼくをちらりとみて、失礼しますね、とあくまでも他人行儀に挨拶をした。
ナツがでていきバタン、とドアが閉まると
「状況が飲み込めん……」
と楓さんがガリガリ君かじりながらひとりごちた。