その後、ハンスは大学へ戻り、残りの課程を終了し、4年間の大学生活を終えて、そのままニューヨークへと向かった。
こじんまりとした町の一画にあるエージェンシーの扉を叩き、自分を売り込んだ。
単年契約ではあるが、ジョニーワトソンが僕の雇い主となった。
何故ここを選んだかと言うと、エージェンシーのオーナーのジョニーワトソンと言う人物が、昔バンドブームの時に全米を一世風靡したザ・アルバトロスのギタリストだからというのと、寮完備と言う文字を目にしたからだ。
長女の寿雅(スア)は、武蔵野芸大の音楽学部ピアノ学科に進んでいる。
来年はパリに留学もするらしい。
妹のピアノの先生は、旧姓を橋本恵美さんといい、昔はフランス料理のオルタンシアの白井シェフの奥さんヒカルさんと一緒にバンドを組んでいたそうだ。
今は、新星MUSICのピアノ教室の講師を遣りながら、個人的に妹のレッスンを見てくれているのだ。
次女の雅怡(アイ)は、めでたく(!?)女学館に合格して、現在はT大生の白井龍一君とままごとの様な恋愛中である。
そして今、寮の僕の部屋を誰かがノックをしている。
僕は、封印の指輪を外して部屋の扉を透視してみた。
そこには、Remmyこと 邵 來美(ソ・レミ)氏 が立っていた。
実はあの後、彼女が突然電話してきて、アメリカはH大学まで遣ってきたのだ。
ちょうどまたアメリカでのライブがあり、数週間はこっちにいるんだとか!
それで、ちょくちょく会ってる内に僕の家に泊まり、一緒に寝る仲になったのだった。
そして、大学を卒業した今、日本での芸能活動を全て休止して、改めて音楽の勉強の為に単身アメリカへ渡ってきたのだ。
日本では、かなり大騒ぎである。
仕方がないから、熊川企画から、ジョニーワトソンエージェンシーへの単年契約でのレンタル移籍である。
可愛い孫娘に泣き付かれたら、会長としてもOKを出さずには要られなかったみたいだ。
『来ちゃった!!』
「本当に驚いたよ。
なんもかんも捨ててアメリカまで来るんだもん!」
『ハンス君が居ないと、私ダメみたいだね!
あの日、飛行機の中で会ってから、頭から離れないんだもん!』
「僕もだよ。
さぁ、中においで。
コーヒー淹れてたとこなんだ!
飲むでしょう!?」
ニコッと微笑んで、ソッと僕の背中に体をくっ付け腕を廻してきた。
仄かに甘いスカルプチャーオームの香りがした。
(完)



