オルタンシアでの食事を終えて帰宅すると、オムニム(母上)もアボニム(父上)も帰宅していて、リビングでくつろいでいた。
よく見ると、二人とも少し疲れたご様子だ。
「お疲れ様です。
引き継ぎは、上手くいってますか?」
『まぁなんとかな!
来月の役員総会で公に発表して、俺が新星グループの会長になる。
本社の社長には、KYUになってもらうとして、日本支社長には筆頭理事の金昌守氏(キムチャンス→DJ-Cの事)になって貰おうと、今は理事会に根回ししているところだよ。』
「マサモリ叔父さんなら、アボニム(父上)の右腕だから、任せといて安心ですよね!」
『お前もそう思うかい!?』
「だって、新星MUSICで20年以上理事長とタレントの二足のわらじで頑張ってきて、企画や本社との架け橋的な役割もこなしながらの良きパパさんなんだから、人望も厚いし問題ないでしょ!
何か問題でも有るんですか?」
『まぁな!
本社副社長の智盛(ジソン)から連絡が有ってな、本社の常務が自分の身内を日本支社に送り込みたいみたいなんだよな!』
「何か、昔聞いた22年前の御家騒動に似たような事が、ヤッパリ節目には起きるんですね!」
『まぁ、しょうがないさ!
利権とかも絡んでくるし、金儲け主義な連中も役員には居るからな!』
「アボニム(父上)、疲れを出さないように気を付けて下さいね。」
『あらハンス、ママには優しい言葉を掛けてくれないの?』
「そんな事ですよ。
オムニム(母上)も、勿論体を労っていつまでも元気でいてください。」
『それにしても、副社長が今回の社長就任を断ったのには驚きましたわ!』
「彼は、社内のゴタゴタや雑音が嫌なんだろう。
身内で重役は固めておきたいんだが、どうしても無理があるから、副社長として専務や常務を牽制しておきたいんだろう。
まぁ、妹のハヌルが本部長としてサポートしてくれてるし、KYUも専務としての実績もあるし、今回の社長就任で完全に歌手は引退して、社長職に専念するから安心だよ。」
『お姉さんも衛生(ウィセン)部の部長として居ることだし、心強いでしょうね!』
「そうだな!
ハンス、ヤッパリ卒業したらうちの本社に入らないか?」
『そうよ。
そうしたらママも安心だわ!
アメリカで一人で遣っていくなんて無謀だし、そうして頂戴な!』
「僕の方こそお願いします。
3年で良いから自由に遣らしてください。」
『それじゃあ、もし3年で結果が出なかったら新星MUSIC本社に入って貰うよ。良いね!?』
「分かりました。
その時は、キッパリと諦めてアボニム(父上)達のお手伝いをします。」
『ところで、飛行機の中で熊川企画の会長の孫娘の邵 來美(ソ・レミ)氏 に会ったって話をしたけど、彼女何か言ってたかい? 』
「いいえ、特に何も言ってませんでした。」
『エッ、お兄ちゃんRemmyに会ったの?』
「Remmyって!
アイ、彼女の事知ってるの?」
『知ってるの?って、お兄ちゃん冗談がキツいわよ!
日本の中学生や高校生、ひょっとしたら小学生でも知ってるわよ。』
「彼女何か遣ってるの?」
『お兄ちゃん、アメリカにいても、ちゃんとアンテナは立ててないと、この業界でなんか遣っていけないわよ!
彼女ねぇ、Remmy(レミー)って芸名で活躍している、今一番熱いアーティストなんだよ!
モデルの様なスタイルと、毎回奇抜な衣裳でのパフォーマンス、4オクターブ半の声量とアクロバティックなダンスで、4大ドームツアーなんか、いつも売り切れで満員御礼なんだよ。
歌番組に出れば、視聴率が30%は必ず超えてるし、彼女は凄いんだから!』
「アイ、随分詳しいなぁ!
もしかして彼女のファンなの!?」
『モチロン!
彼女の出ている番組は、必ずチェックしてるんだから!』
と、偉そうに胸を張って言い切ったアイちゃんに、
「アイちゃん、君は受験生としての時間の使い方を分かっていないみたいだね!
お兄ちゃんに偉そうに言う前に、復習してた方が良いと思うんだけどねぇ~♪
息抜きにテレビを少しくらい観るんだったら、別に良いと思うよ!
でも、アイちゃんはテレビよりも参考書でも見ている方が良いみたいだね!」
ヤバイ!と想った妹の雅怡(アイ)は、はーい!と間の抜けた返事をしながら、そそくさと自分の部屋に帰っていった。
リビング奥のガラス張りの部屋の中には、昔飼っていた秋田犬の【巨連(コヨン)】の子供達3匹が思い思いに遊んでいた。



