『もちろん進学するわよ。』
「ヤッパT大学?」
『まぁ、アッパ(パパ)やオンマ(ママ)とおんなじT大学ってのもアリだけど、ヤッパピアノ続けたいからなぁ……、武蔵野芸術大学の音楽科のピアノコースにしたいな。
ピアノでパリに留学も視野に入れて考えたら、この大学に入るのがベストだと思うんだ。』
「そうだね。
となると、残る問題は雅怡(アイ)ちゃんだけだな。」
『雅怡(アイ)、女学館は難しいよ。
マジで受ける気?』
『そうだよ。
だからね、白井叔父さん所の龍一兄ちゃんに家庭教師頼んで貰うの。
ね、オッパ(お兄ちゃん)!』
「まぁ、間違いなく引き受けてくれるよ♪」
『あの俺様の龍一兄かぁ……
ブラコンの雅怡(アイ)ちゃんにはピッタリだよね。』
「僕は、俺様なんかじゃ無いんだけど!」
『自覚がないのが一番厄介なんだよねぇ。
兄貴、結構な俺様なんですけど!
オマケに女の子の間では王子様キャラも浸透しているのよ。』
「僕が!?
まさかぁ~!
いたって平凡な僕が、なんて恥ずかしい誤解なんだ!」
『無意識で遣ってるから、翻弄される周りの女性が気の毒だよ♪』
『オッパ(お兄ちゃん)、雅怡(アイ)のクラスの友達も去年の夏休みにうちに遊びに来た時に言ってたよ。』
「マジか!
僕のイメージが……」
『ところでさ兄貴の今回はいつまでこっちに居るの!?』
「サマーショートプログラムを受講してないから、8月末までの3ヶ月はこっちに居るよ。」
『じゃあ、寿雅(スア)のピアノコンクールに観に来てよ。』
「今年も出るのか?」
『今年こそは優勝したいもん。』
「で、今年は何を演奏するんだい!?」
『 バロック・古典から、バッハ のイタリア風のアリアと変奏 イ短調/Aria variata alla maniera italiana a-Moll 、課題の練習曲はロマン派から リストの マゼッパ、近代からラベルのソナチネ3曲なんだけど、今も猛特訓中なんだ! 』
「ラベルのソナチネかぁ!
また難しいのを選んだなぁ。
パッセージは、親指の使い方って言うか逃がし方を上手くしないとな!
16分音符の3連が続くから、うまくインテンポで演奏しないといけないよな!」
『さすが兄貴、分かってる!
最初は【鏡】にしようかなぁって思ったんだけど、私にはこっちの曲の方が好きなんだよなぁ。』
「だけど、ラベルが本当に表現したかったのは、【鏡】の方かもって僕は感じたけどね。
まぁ、どっちもラベルの世界観を巧く表現されているんだけど、近代からとなると、【ソナチネ】で正解だよね。
それにしても、こんな難曲、今からで間に合うのかい!?」
『任しといてよ。
だてに幼稚園からピアノ習ってないんだから!』
「ところでさ、オムニム(母上)達、帰ってくるの遅いな!」



