あとになって聞いた話だと、アボニム(父上)が初めて物体の瞬間移動を試した時は、ハンカチが紙吹雪の様にボロボロになったそうだ。
僕の場合は、色々と練習をしてビジョン以外で出来るようになったのは、物を動かしたり、瞬間移動をさせたり、物の記憶を読み取るサイコメトリーの3つだ。
まだ、練習をして他の力を使うことが出来るようになるかも知れないとハラボジニム(お祖父様)は仰るが、これだけでも大したもんである。
アボニム(父上)みたいに、念写したり電気を操ったり、人間の思考を操ったりと言うのはまだ無理みたいである。
ハラボジニム(お祖父様)のようなプロファイリングの能力もまだ出来ない。
その代わり、僕は僕自身の体を浮かせたり出来た。
よく見ていたアニメに出てくる武空術みたいに遣っていたら、体が浮いたのである。
狭い家の中で試したので、ちゃんとした事はまだわからないが、かなりのスピードで滑空出来るみたいだ。
後、透視能力も有った。
壁の向こう側が透けて見えた時は、感動よりも気持ち悪さの方が先に来た。
人間の体まで透けた時は、レントゲンを見ている感覚である。
そんなこんなで1週間のトレーニングも終わり、今は東京は人形町の実家に帰ってきている。
『恒寿オッパ(ハンスお兄ちゃん)、お帰りなさい。』
「雅怡(アイ)、久しぶりだな!
いよいよ来年は高校生かぁ~♪
進学先は、もう決まっているのかい?」
『一応、寿雅オンニ(スアお姉ちゃん)が行ってる女学館だけど、ヤバイかも……。』
「何がヤバイんだい!?」
『だって私、英語と数学と物理が苦手なんだもん!』
「中学レベルの英語や数学や物理で苦しんでいたら、高校行ってマジで引くぞ!
メチャクチャ難しいからなぁ!」
『寿雅オンニ(スアお姉ちゃん)も、おんなじこと言ってた!
あぁ~あ!
もうちょっと真面目に勉強してたら良かった……。
オッパ(お兄ちゃん)もオンニ(お姉ちゃん)も頭が良いのに、何で私だけ悪いんだろう!』
「イヤイヤ、何故って!
何故なら、それは雅怡(アイ)ちゃんが真面目に勉強をしてこなかったからで、それ以外の何者でも無いはずだけど!?」
『ハァ~あ!
そうなんだよなぁ……
家庭教師でも付けて貰おうかな!』
「それなら、龍一君に家庭教師頼んであげようか?」
『龍一君?
もしかしてフレンチレストラン【オルタンシア】ん所の龍一兄ちゃん?』
「そうだよ。
龍一君、今年からT大学に通っているし、高校生の時から家庭教師のアルバイトしてたから、教えるのは上手だと思うよ。」
『でも、龍一兄ちゃんって、雅怡(アイ)がまだ小さかった頃、良く意地悪してきたんだよねぇ……』
「何言ってるんだい!
一番可愛がってくれてたじゃないか。
龍一君は、いつも
【雅怡(アイ)ピョン可愛いぞ! 将来は俺様の所にお嫁に来るんだぞ! 毎日親父の作る美味い料理食わしてやるからな!】って言ってたじゃんか」
『私がオンマ(ママ)が買ってくれた髪飾りをしていたら、【頭に何付けてんだ!バッタか?カマキリか?】なんて言うし、スカートはめくってくるし、恵里沙姉ちゃんと一緒に、バレンタインにあげるチョコをお店が休みの日にオルタンシアの厨房を借りて作っていたら、横から来て半分以上摘まみ食いして【下手くその失敗作だから、俺様の胃袋の中に処分しといてやったぜ!】って酷くない?』
「ベタな愛情表現の裏返しにしか見えないんだけど!
龍一君が、妹の恵里沙ちゃんを使って、
雅怡(アイ)をオルタンシアまで連れてこさせたんだよ。
だから、雅怡(アイ)の作ったバレンタインチョコは、見事龍一君の腹の中って事だよ。」
『龍一兄ちゃんかぁ!
身長は183cmあるし、T大学だし、俺様だけど顔はイケメンだし、家庭教師の件、頼んでくれるお兄ちゃん!?』
とそこへ、
『ただいま~あ!
あれ、兄貴帰ってたんだ!?』
「大学が長~い夏休みに入ったからな!
ところで寿雅(スア)、今日は土曜日だし学校休みだろ!?
こんな時間まで何処に行ってたんだ!?」
『こんな時間までって、まだ夜の7時じゃん!
今日はねぇ、新星MUSIC日本支社で従姉の裕里オンニ(ユーリ姉さん)と、第23回 G-1グランプリの告知CMの撮影が有ったんだよ。』
「もう23回目かぁ!
早いなぁ…
今年は僕も出てみようかなぁ♪
HANSの名前で、金髪カラコン付け髭で変装して!」
『アッパ(パパ)には直ぐバレるわよ兄貴!』
「だよなぁ~♪
今さ、雅怡(アイ)ちゃんとも話してたんだけど、寿雅(スア)は受験どうするの?」



